行列のできる不倫相談所

妻の挙動がおかしい!

夫は大手メーカーのサラリーマンで50才。最近は同期では一番に部長に昇進し、仕事への意欲も更に高まり、妻から見ると順風満帆のサラリーマン人生を送っているようみえた。

昨今の日本メーカーのアジア進出に伴い、夫もアジアへの1週間ほどの短期出張の繰り返しで家を空けることが多くなった。

子供達は社会人や大学生となり夫婦二人にしては広い家で妻は一人で夫の留守を守ることになった。

夫は「妻は子育てから解放され、自分の趣味を楽しんでいるようだ。」と心中思っていた。

そんなある日、短期出張から帰宅した夫は妻の挙動がいつもとは何か違う、言葉では表せない雰囲気を感じた。

「どうしたのだろう?」「何かあったのだろうか?」と心の中では心配したものの、何か困ったことがあれば、妻はきっと自分に相談してくれるだろうと思うことにした。

そんなことがあった週末。付き合いでゴルフに出掛けるはずの夫の予定がキャンセルとなり、妻は大学時代からの親友とランチの予定が入っているからと外出した。

妻が忙しなく出掛けて行った後に携帯電話を忘れていったことに気付いたがそのままにしておいた。

すると妻の携帯電話が鳴り、表示された名前はランチを共にすると言っていた親友からのものだった。

夫が電話に出ると、その親友は「今日は時間が出来たので奥様をランチに誘おうと思って・・・」とのこと。

妻のランチは一体誰と?妻の通信履歴を見ると、そこにはイニシャルらしき2文字の記録が残っていた。

嘘まで付いての外出とは「浮気?」と夫は思った。テレビドラマでは夫の浮気調査を妻が探偵に依頼するというストーリーを何度かみたことはあるが・・・

まさか自分が探偵に妻の浮気調査を依頼するとは・・・

近隣の人達は夫婦仲睦まじく買い物から帰ってくる二人を何度も見ている。

夫は重そうな買い物袋を持ちながら妻のおしゃべりに微笑みながら頷き、時折、言葉少なに対応していた。

夫はそんな自分達の夫婦関係に満足していた。

「自分一筋と思っていた妻が嘘を付いてまで外出する理由は何なのだろう?」という疑問が夫の頭から離れない。

仕事の為とはいえ、家を留守がちにし寂しい想いをさせてきたことは申し訳ないと思っているが、その分、人並みの暮らしをさせてきたという自負もあった。

妻の不審な外出があった翌週、夫は自分からゴルフの誘いを断り、たまには妻と一緒に休日を過ごそうと考えた。

「週末は家で過ごよ。」と夫が言うと、妻は「バーゲンに出掛ける予定があるの・・・」と言う。

バーゲン会場の人混みが嫌いな夫のことを妻は知っている。夫は妻が一人で外出したいのだなと思った。

「誰と?」と聞くと「一人よ」と妻はいつものように微笑んで外出した。

先週のこともあり夫は不安でたまらない。妻の外出後、夫は気分転換に近くの公園に出掛けた。

その途中、電柱に「浮気調査いたします。是非ご相談を。○○探偵事務所」との貼り紙が目に留まった。

今で何度か目にした貼り紙だが、自分には関係がない代物で、こういうところに相談する人もいるのだろうか・・・とまるで他人事だった。

一度はその貼り紙の前を通り過ごしたものの、やはり気になり、電話番号を自分の携帯にメモリ、自宅に帰った。

妻の帰りが遅い。夫は不安を募らせ、他人には決して言えない、この不安を早く解決しようと決意し、その探偵社に電話をした。

探偵による妻の浮気調査の結果

興信所は雑居ビルの一室にあった。想像していたよりも整然とした綺麗なオフィスで、事務員らしき中年の女性が手際よく書類をさばきながらパソコンに向かって何かを打っている。

予約をした旨を伝えると、応接室に通された。お茶が出され、ほどなく、探偵らしき人物が現れた。

どこにでもいそうな温和な感じの男性だったが視線はどことなく鋭かった。

夫が妻の挙動を話すと、探偵は「浮気の可能性は拭えません。ご希望ならば妻の浮気調査してみましょうか・・・」とさらりと言ってくれた。

夫はその対応が気に入りお願いすることにした。

翌週から、夫は再びアジアへの短期出張である。

帰国後に東京の調査会社から1回目の浮気調査の報告を受けることになった。

帰国後、探偵社を訪れた夫は東京の素行調査の結果として探偵から出された写真を見て驚いた。

相手の若い男は自分の部下だった。

写真の場所はホテルのロビーだった。「今までかわいがってきた部下が妻とどうしてホテルのロビーに?」。

夫は妻の裏切りと部下の裏切りに対する二重のショックを受けた。

出社した夫は妻と逢っていた部下が気になって仕方ない。夫はストレートに部下に聞いてみようと退社後の食事に誘った。

夫は何気なく「この間、妻が君とホテルのロビーにいるところを見たのだが・・・」と聞くと、部下は驚いた様子ですぐに「すいません・・・」と謝ってきた。

そして、続けた。「実は、部長から期待されているのは嬉しかったのですが、その反面、不安ばかりが募り、そんなとき、偶然に親友のお母さんにお会いして、その方が部長の奥さんだったんです。

最初は昔話しで盛り上がり、その後、僕の直属の部長の奥さんだったと知ったんです。

つい甘えて、仕事の悩みを聞いてもらいました。

そして、部長が僕を我が子のように思って大切にしていてくれたことも分かり、僕はスランプから立ち直れました。」と言うのだ。

そして、彼は近々結婚する予定もあり、その相談をフィアンセと一緒にしていたというのだ。

夫は妻の内助の功に感謝し数十年ぶりに花束を買って家路を急いだ。